伝説のバカゲークリエイター
大学に入って初めて行ったゲーム研究調査は「バカゲー」研究だった。バカゲーとはいわゆる出来の悪いタイトルを指す「クソゲー」とは異なり、よく出来たタイトルであるにも拘らずお馬鹿なゲームコンテンツのことを指す。大抵の場合、一般受けしないのだがコアなファンが付いている事もままある。
なぜこういうことを調べようかとおもったかといえば、大変制作が難しいからである。そもそも、出来の悪いコンテンツならば、まじめに作ったとしてもプレイヤーに「クソゲー」と呼ばれる。コンテンツの質を維持しながら、尚且つお馬鹿を演じることの難しさは並大抵でない。「笑い」を産み出す事が如何に難しいか、文化や環境に左右されやすいか、を考えると、ある意味もっとも作り出すことが難しいゲームコンテンツであるといえる。
バカゲーを分析する事で何か重要な事がわかるのではないか、そう考えて、ネット上のフリーのバカゲーを分かる限りプレイしまくった。その中でひときわ異彩を放つ一人の作り手が居た。それが表題の作り手である。
彼の名前は「ピクニックマン」。
例えば今もWEBに残るレビューを見て欲しい。
窓の杜 - 【NEWS】スポーツカーを駆ってライバル達とレースを重ねていくゲーム「車マン」v1.0
フリーソフトという事もあり、他のバカゲーと呼ばれるゲームはRPGツクールなどのツールの支援を受けたものが多い中、ピクニックマン氏は全てゼロから作成していた。それこそ、プログラム、グラフィック、サウンド、一人全役のボイスなどなど全て氏自身で作成していた。
通常一人でゲームを作成するとなると、個々のクオリティの問題が出てくる。特にグラフィックはそのクオリティの問題になりやすい。実際コンシューマーソフトでも最も手間が掛かるのはグラフィックであるという。フリーゲームで秀逸なタイトルを数多くリリースしているABA GamesのABA氏(id:ABA)*1などは
抽象的なゲームは、特にゲームを個人製作している人間にとって非常に重要だ。だって絵を描いたりポリゴンモデルを作ったりする必要がないんだもの。「それは手抜きじゃねーの」という主張には「その通り」と答えよう。1つのゲームにかけられる時間と気力は有限なんだから、どっかで手を抜かなきゃ。
と、日記内で主張している。事実ABA氏のゲームは抽象的なグラフィックが殆どであり、またそれがABA氏の作風にもなっている。
一方ピクニックマン氏はその問題に対し、クオリティの問題を逆に武器にしていた。どういうことかといえば、氏のゲームのお馬鹿具合はある意味「手抜き」を堂々とやっているからこそ産み出されている。これはすごい事だ。手抜きを手抜きでなく味に変え、エンターテインメントを演出しているのだから。先日のCEDECでも「如何に小さく作るか」が何度も問題として提起されていたが、ある意味その答えを早くも提示していたといえる。
更にピクニックマン氏の場合、新しい試みを何度も試みていた。氏が作成したゲームは
- いちごマン
- タイミングアクション
- 車マン
- レース
- ほりょマン
- シューティング
- 生ものマン
- 目押しスロット
- 980マン
- 横スクロールアクション
といわゆるシステム的にダブるものが無い。つまり、毎回新しいシステムに果敢に挑戦をしていたのである。更に、「生ものマン」からはDirectXを用いて3D描画を取り入れ、「980マン」ではネットワーク対応が予定されていた。新しいテクノロジへの挑戦も果敢だったのである。
氏が伝説的になったのは、このような独自の作風で一種のブームが生まれている最中、突然引退を表明し、ネット上から忽然と姿を消したからである。氏のサイトがあったドメイン*2には
引退しました。
さよなランボー
とだけメッセージが残されていた。最後まで遊び心のあるメッセージを残すところなどは、如何にもピクニックマン氏らしい。ピクニックマン氏は生粋のエンターテイメントを提供するエンターテイナーであったのだ。
氏が何故引退したのか、一体どんな人間だったのか、今となっては知る術もない。だが、それは重要なことでない。一作り手として、一つの指針を指し示した(?)パイオニアであった事、この事実の方が重要だと考える。
調べ始めた当初、このような出会いがあるとは夢にも思わなかった。彼の存在に出会えたこと、このことが最初の調査の最大の成果となった。
*1:ちなみにABA氏の「まさしくんハイ!」まさしくんハイ!は大変すぐれたオリジナリティ溢れる「バカゲー」である。一度プレイすることをオススメ。
*2:http://www.aaiiuu.com/ だが、現在は存在しない。Web Archiveに残るページ→http://web.archive.org/web/20030923015224/http://www.aaiiuu.com/