Gamasutra水口氏のインタービューに見る、日本の同人ゲームとゲームインディーズの未来

Gamasutra水口哲也氏のインタビューに、日本の同人ゲーム/ゲームインディーズの話題が挙がっていた。

Gamasutra:「新しい人を発掘するという意味で、どのようにして『Every Extend』を見つけたのですか?このゲームのオリジナルは同人ゲームです。日本ではこのような同人サークルがゲーム産業への良い登竜門だと思いますか?」

水口:「それはある美的思想をもった人たちの一種のインディーズ・バンドですね。オリジナルの『Every Extend』はディレクターの世永が見つけたもので、PC向けのフリーウェアとして公開されていました。作者に連絡を取ってもよいかどうか訊かれたので、私は『OK、やるべきだ』と言いました。コンタクトを取ってみたところ、作者は学生でした。これは驚きましたね。名古屋大学の学生で、とても若かったので、『おお、こりゃいいね』と思いましたよ。で、音とビジュアルエフェクトを付けて『Every Extend Extra』としてコンソールゲームで出してもいいかどうか話したところ、とても興奮してましたね。結局、彼には『Every Extend Extra』チームにゲームデザイナーとして参加してもらいました。

こういう状況は本当にいいことだとおもいます。若い人がPCフリーゲームを作り、誰かがそれをみつける…、本当にいい話だと思いますよ。」

PSPでリリースされている「Every Extend Extra」は、元はd:id:o_mega氏作のフリーゲームである。

EVERY EXTEND EXTRA エブリ エクステンド エクストラ - PSP

EVERY EXTEND EXTRA エブリ エクステンド エクストラ - PSP

参考:Every Extend Extra/ゲーム情報ポータル:ジーパラドットコム

ゲームインディーズ冬の時代の日本国内において、Every Extend Extraは確かに本当にいい話の例だろうと思う。多くは情報の海の奥底に埋もれるか、タダ同然で権利を買い上げられるか、まあ、不運な運命を辿る。そういう意味では、Every Extend Extraには日本のゲームインディーズの未来が託されているのかもしれない。大げさだが。

Gamasutraのインタビューワーは日本のゲームシーンについて若干知識があるらしく、次のように続く。

Gamasutra:「こういう事例というのは今後より多くなってゆくんでしょうか?米国では、ゲーム産業に入るための方法としてインディペンデントなゲーム開発を選ぶ人たちが結構います。ですが日本では、同人ゲームシーンの規模が大きく、結構な数の人たちが業界には入っていないように見えます。たとえば、こちらでは長健太氏の名前が、そういったゲーム産業の主流に参加しないで活動している人として有名です。」

水口:「長健太さん?」

Gamasutra:「多分、アメリカでは『Tumiki Fighters』や『Noiz』などのゲームで一番人気のある人ですよ。デザインから、アートやミュージックに至るまで全部一人で作っている人です。ところが、一般のコンピュータ会社で技術職に就く40歳くらいの人のようなのです。彼のゲームは本当に人気があります。」

d:id:ABA氏は本当に海外での知名度が高い。一方の水口氏は知らないようだ。

それはさておき、インタビューワーは興味深い指摘をひとつしている。水口氏が「kind of an indie band type aesthetic(ある美的思想をもった人たちの一種のインディーズ・バンド)」と呼ぶ*1同人ゲーム界隈は、規模が大きいにも拘らず(ごく一部を除き)ゲーム産業の登竜門となっていないのは、指摘のとおりだ。

Gamasutra:「ところで、その界隈の流れは沢山追いかけているんですか?それとも『Every Extend』が最初ですか?」

水口:「ええ、私自身は見ていませんが、Q ENTERTAINMENTでは世永のような若い才能がいつも見ています。時々、『これどうおもいます?』と訊いてきますよ。また多分、こういう機会があるでしょうね。」

最後の一文は、日本のゲームインディーズにとって一瞬期待させてくれる。だが、そのまま鵜呑みするわけにはいかないだろう。

水口氏本人が同人ゲーム界隈の流れを追いかけていない、というのがひとつの例だ。もし金の卵がゴロゴロしているのなら、目を皿のようにして探すはずだ。それをしていないとはつまり、日本のゲーム開発者、ゲームプロデューサー、あるいは経営に近い人間は、「同人ゲーム界隈=ゲームインディーズ」とは見ていない、ということだ。

多くが趣味として作られる同人ゲームがコンシューマータイトルまで行くためには、

  • クオリティ
  • ボリューム
  • 表現
  • 著作権
  • 商品としての魅力

などなどさまざまな障壁が待っている。しかもこれは最低ラインのハードルであって、そこから先はさらにプロのタイトルとのガチンコ勝負というさらなるハードルが待ち構えている。言うまでもなく、厳しい道だ

「Every Extend」の例にせよ、うがった見方をすれば、一種の"保険"ではなかったか、と見ることも出来る。Q ENTERTAINMENTの立ち上げ時期、いくら水口氏率いるとはいえ、大手ではなく実績もない企業が、紙の上以外に影かたちもない*2タイトルを作り出すより、あるていど成立したものを拾い上げてきた方が保障がある。後発組にはつきもののリスクを犯さなければいけない状況下でリスクを最小限にする一種の方法だったのではないか、と見ることも出来る。

もしそうならば、やはりまだまだ冬の時代のままなのだ。その状況が幾分暖かくなるためには、市場にある程度のインパクトが必要になる。それも、まともな利益が期待できない(つまり、食ってゆけない)低額カジュアルゲーム市場でもなく、市場のパイが狭すぎるPC市場でもなく、海外勢に太刀打ちできないPCオンライン市場でもなく、経営者層・経営者層に近い人間にもはっきりとインパクトがある、日本のコンシューマー市場で必要なのだ。残念だが。

Every Extend Extraには日本のゲームインディーズの未来が託されている」というのは、大袈裟ではないのかもしれない。

*1:皮肉だろうか?aestheticという単語は相当堅苦しいと言うか、なんというか、そんな単語である。

*2:そして、面白いのかどうかはもちろん、売れるかどうかすら分からない