ゲームに於けるブランド

先日Trackbackを送らせて頂いたNintendo DS ブログNDSのファーストインプレッションが載っている。その中に興味深い記述があった。


NDSは非常に面白いのですが、やはり任天堂ブランドは「子供向け」といった観念が一般に広まっていますので、大人にバカ売れするのは難しいでしょう。やってみたらハマると思うんですけどね。大人でも。

任天堂自身が、


対象年齢は「5才から95才で、面白いことが好きな人はすべて」としている。

と言っている事を考えると、世の中は任天堂の考える方向には行っていない様だ。5歳の人間に合わせるとなると、可能なコンテンツ表現やハードギミックにも制限が出てくる。加えて何故か任天堂の場合、コンテンツの世界観や雰囲気(佐藤雅彦氏の言葉を借りれば「トーン」)が共通なので、どうしてもある一定のイメージが構築されてしまう。一度「子供向け」のイメージが付けば、これを覆すのは難しい仕事となる。

この例を見ていると任天堂ブランディング戦略が下手だな、と思う。これでも寧ろゲーム業界の中ではいい方だ。かのファミコン・ミニもブランディングとパッケージングが上手かった為、あれだけのブームになった*1NDSのCMもそれなりに良く出来ているとは思う。しかし、他業種からみれば、圧倒的に下手くそだ。

一つの企業が複数のブランドを持ち、ターゲット層ごとに使い分けていると言うのは珍しいことではない。ゲームの場合、タイトル毎のブランドもあることにはあるが、日本においてはコンテンツメーカー企業それ自体がブランドだ。米国市場の様にディベロッパーとパブリッシャーが大きく分かれているわけではない。このような場合、大抵は企業名=ブランドと化している。一度イメージが付いてしまうと、なかなか複数のターゲットに向けて訴求することが難しくなる。

トヨタ自動車の例を挙げると、国内ではいいものの、米国で「安くて」性能のいいブランドというイメージが消費者に付いてしまい、車種ごとにブランドを設定しても企業そのものに付いたイメージを払拭しきれないという時期があった*2。ちょうど、子供向けのイメージが払拭しきれない今の任天堂のようだ。

そこで、トヨタはどうしたかといえば、海外向けに高級ブランド「レクサス」を立ち上げた。これが10数年前のことであり、いまや米国市場においてレクサスブランドはかのメルセデス=ベンツブランドよりも高い評価を受けるまでになった。今では海外の消費者はトヨタとレクサスは別企業だと思っている人も少なく無いそうである。この流れは一定のインパクトがあり、ホンダ、日産がこの流れに続いた。そして今度は日本に凱旋帰国するそうだ。

この方法がゲームビジネスでも通用するかどうかは別の問題である。ただし、これくらいはやってもいいんでないの、と思ったりもする。そういう意味で「ニンテンドーDS」という名称も、もう少し考えようがあっただろう。

ちなみに、カプコンから分社化したクローバースタジオ株式会社やかつてのセガの子会社ブランドはある意味複数ブランド戦略と言えるかもしれない。セガの子会社ブランドは一定のブランドイメージを作りつつあったような気もするが、セガの方針転換でその流れがどうなるか見る事は出来なくなった。ここはクローバースタジオに注目かもしれない。

ブランドと言うのは言ってしまえば「偏見」だ。ブランドイメージが出来上がるというのは偏見で見方が固まることと同義であり、それが良いものでなければ、なんらかの策を打たねばならない。「ゲーム」というブランド(及び偏見)もどうもよい方向に行っていないような気がする。ここらで、新しいブランドイメージを作るべき、かもしれない。

*1:もし、ノスタルジックなレトロブームを煽っただけならば、あそこまで売れなかった。ナムコミュージアムなどの例を挙げるまでも無いことだ。

*2:これは現在でもそうらしい。