全く解せないのは、なぜ「創発」という汎用の言葉を用いずに、ゲームに対して「web2.0」というwebの言葉を用いているのか、という点だ。
先日、「安易にWebの流行に流される人は、「web 2.0 = game 0.5」である可能性に留意しておいた方がよい」という記事を書いたら意外にも言及されたので、さらに反論というか、あの記事の裏の意図をさらに書こうと思う。
web2.0って創発システムそのものではないか?
web2.0といえば、Tim O'reillyが書いた文章の中に出てくる、次の7分類が主たる要素としてよく知られている。
- 1.Folksonomy:
- 階層分類学でなく、ユーザーの手で自由に分類する思想
- ・・・Flickr, はてなブックマーク
- 2.Rich User Experiences:
- AJAX,DHTML,Greasmonkey等を駆使し、ページ上で直感的操作
- ・・・Gmail,GoogleMap,goo地図
- 3.User as contributor:
- ユーザー体験の蓄積をサービスに転化
- ・・・PageRank,eBayのユーザ評価,Amazonレビュー
- 4.Long tail:
- ユーザーセルフサービスの提供でロングテールを取り込む
- ・・・Google Adsense
- 5.Participation:
- ユーザー参加型開発、ユーザー生成コンテンツ
- ・・・ブログ,mixi
- 6.Radical Trust:
- 進歩的性善説、知のオープンソース
- ・・・Wikipedia、はてなダイアリーキーワード
- 7.Radical Decentralization:
- 進歩的分散志向、ネットワークの外部性
- ・・・Winny,BitTrrent
ちょうどこの記事が出る少し前あたりからweb2.0が声高に叫ばれ始めていたので、「web2.0って何?」と思ってはてブを徘徊していた私にはちょうど良い記事だった。で、読んで見て、「あれ?これって創発システムのことじゃない?」と、はたと気がついた。
創発 (emergence)
局所的な相互作用を持つ、もしくは自律的な要素が多数集まることによって、その総和とは質的に異なる高度で複雑な秩序やシステムが生じる現象のこと。所与の条件からの予測や意図、計画を超えた構造変化や創造が誘発されるという意味で「創発」と呼ばれる。
創発という言葉自体はある意味web2.0以上にbuzzwordなのだが、創発システムとして、webの創発性を高めることを考えると、まさにこの分類で言われているような方向になる。webの創発性を高める、という視点で具体的に考えた結果がここに書かれていると言っても良い。2番目のRich User Experiences以外は創発で言われることそのものだ。そこで私はweb2.0というのはより創発性の高まったwebのことだと認識していたのだが、不思議とその後創発とweb2.0を絡めて論じた記事を見かけなかった。
あらためて問いたい。web2.0って創発システムそのものではないか?あるいはより創発性の高まったwebのことではないか?web2.0でより便利になるとか生活が豊かになる、とかいった幻想に近いものを除けば。創発自体がwwwの影響を受ける考えであるということも言えるが、少なくともweb2.0はより汎用的概念である創発の、web的解釈の具体例以上であるとは思えない。
ゲームデザインにおける「創発性」
私が「創発性」というキーワードを知ったのはRadium Software Developmentの記事経由だった。
この "emergence" という単語は,ゲームデザイン関連の文献を漁っていると,よく目にすることがある。どうやら日本語では「創発」という訳語が当てられているようだ。
この記事の中でも言及されている、Game Design WikiのEmergentStrategiesでは2001年のGamasutraの記事がリンクされていることから考えると、少なくともその時点では既に認識されていた。
ちなみに過去一度だけweb2.0とゲームデザインに関しての考えを記事を書いたことがある。
オンラインの利点と言った時に、かつてよく言われたのがコミュニケーションだったが、結局の所肩を並べてプレイすることに敵わない訳で、本当の利点は配信であってコンテンツの質には大したインパクトは無い―。そう思ってきたのだが、最近個人的に考えを改め始めている。特にWEBでベータもしくはアルファの状態で世の中に出され、使われているうちに独自の利点を伸ばして新たな層を獲得するサービスやコンテンツを見ていると、なおさらそう思うのだ。
「ポリローグ的+ゲームの利点に特化して新たな層を狙う」が可能だとすればひとつここにヒントがあるだろう。もちろんこのままではダメで、なにかもう一段階飛び越えるべきハードルがあるのではあるが。
当時はweb2.0というキーワードが無かったので使わなかったが、言わんとすることは同じだ。で、コメントで「それって創発システムじゃん」と突っ込みが入ったのと、ウィル・ライトのSporeにおけるプロシージャル・メソッド*1を聞いて、今更だったか、とがっかりした記憶が残っている。
「おいでよ どうぶつの森」がweb2.0的に見て素晴らしいらしい。私はプレイしていないので肯定も否定も出来ない*2。それが本当だとしたら、「そりゃそうだろう」と思う。ゲームデザインにおいて創発性を考えるのは今や基本である。ネットワークが絡むなら尚更だ。ゲームデザインとネットワークのR&Dにおいて世界の最先端を走る*3任天堂がその程度のことをするのは想定の範囲内だ。
ウィル・ライトがプロシージャル・メソッドというゲームデザインのアイディアを提示したのだとしたら、宮本茂氏率いる任天堂は、「ぶつもりメソッド」を提示した、ということなのだろう。それをどうして、「より創発性の高まったゲームデザイン」と評価せずに、「web2.0」「mixi的」などと評価するのか。webの専門用語まで持ち出して、汎用用語を使わないで説明することの利点が全く分からない。無意味な混乱を招くだけだろう。第一、web2.0的ではオフラインゲームの創発性について全く見過ごされてしまうのではないか?「web2.0」という言葉を使うということは、「ぶつもりの必然的進化」を否定するということか?
「WEB 2.0 = Game 0.5」である可能性に留意すべき、と書いたのは、web2.0的と呼ばれる創発性はゲームデザインの基礎の一つでしかない、という示唆だったのだが。基礎は重要だから、重要視するのはもちろん構わない。しかしながら、先を見なければ前に進めない。必要以上に基礎を有難がるのはイノベーションにとって危険である。web2.0というマーケティング用語に惑わされ、軸足を置くべきメディアを間違え、やっとモノに出来たと思ったらとっくの昔に陳腐化していた…という未来予想図を想像するだけの緊張感は持っておくべきだと思うがどうか。
もちろん、web2.0を否定はしないし、webとゲームの融合という可能性も否定しない。直接的に有効だということもあるだろう。いわんとするその流れは、たしかにある。だが、そのことを論じたいのならば、web2.0というキーワードは使うべきでない。