『「遊び」の文化人類学』を読む(1)

ゲームデザイン研究は、遊び研究の系譜にあると考えられる*1。遊び研究といえば、「ホモ・ルーデンス」を著したヨハン・ホイジンガや「遊びと人間」を著したロジェ・カイヨワなどが有名である。特に、カイヨワの遊びの4つの分類(アゴン、アレア、ミミクリ、イリンクス)は、ゲーム開発者なら知らない人は居ないと言うくらいに良く知られているところだ。

その一方で、ホイジンガ・カイヨワ両氏以外の遊び研究を聞かない*2。面白い領域なので系統的にあっても良いはずなのだが、子どもの行為として遊びを研究する、とか、文化としての遊びを研究する、とかの例は多々あるのだが、遊びそのものについての研究を見かけないのは不思議だ。もちろん私が専門外だから、調査不足だから、ということも十分考えられるのだが、「Ludology」といういかにも使われていそうな名前が、提唱されてそれほど経っていないところを見ても、もしかするとこれも散発的だったのかもしれない。

子が子なら、親も親…と言いたいところであるが、いやいや、こういうところにこそ原石が転がっていたりもする。その原石の一つが青柳まちこ著『「遊び」の文化人類学』だ。

「遊び」の文化人類学 (講談社現代新書 476)

「遊び」の文化人類学 (講談社現代新書 476)

d:id:hiyokoya氏がAmazonの書評で、「とても練られていて感動した。」と高い評価を付けていたのでどんなものかと思って読んでみたが、実に驚きだった。

特に驚いたのは、第一章「遊びとは何か」という章である。この本は文化人類学と銘打っているし、事実そういう本なのだが、むしろ重要度の度合いで言えば、このホイジンガ・カイヨワの研究を組んでさらに進めた第一章こそが注目だ。文字通り、この章は、遊びとは何かと言う問題に取り組んだ章である。ホイジンガやカイヨワの言うところの西洋的な「遊び」が、積極的・活動的な部分に意味の中心がおかれ、その反面、消極的な遊びについてが弱い、と言う指摘から始まって面白さの構成要素とは何か、そしてそれらの相互関係はどうなっているのか、といった話が進む。

次の例は遊びの面白さを構成する要素の相互関係を青柳氏が図に示したものである。この章を端的に物語っている、といっても過言ではない。

この図を見ても分かるとおり、この時代にここまでまとめていたとは実に驚きである。特に、この図が示されたことによって感覚的に意見が捉えやすくなっている。

*1:もう一つの大きな系譜は、デザインの系譜だ。

*2:そもそも両氏は専門の遊び研究者ではない。当然と言えば当然だが。