王道に学ぶべきは常識の否定である

常識は「思考停止」であるということ

"常識"と言う概念がある。我々人類は全ての物事にいちいち考えをまわしていられない。そこで、暫定的に「常識」から孫引きすることで、思考の効率化を図っている。いわば「思考のキャッシュ」が「常識」である。

ここで留意しておかなくてはいけないのは、そのことはつまり、思考の停止と同義である、ということだ。常識は便利だし、必要なものであるが、結局のところはとりあえずの付け焼刃でしかない。そのことを忘れて、「常識だから」となんら思考せず迎合してはいけない。それは思考の敗北であり、人間として大事な何かを失っているからだ。

コンピューターゲームは実は「お約束」が多いということ

さてコンピューターゲームに話を戻そう。コンピューターゲームは実は「お約束」が多い。やはり登場から数十年経ち、その形態が固定化し成熟化してくるとありきたりな「お約束」は生まれてしまうようだ。これは別にコンピューターゲームに限ったことではない。何事にでも起こりうることだ。

例を挙げてみよう。例えば「スコア制」。この最も偉大なる発明(そして最も特徴的な「お約束」)は古典的ゲームの時から存在する。古典的ゲームの代名詞であるスポーツから、現代のさまざまなコンピューターゲームに至るまで「スコア制」は多用されている。これも考えてみれば「お約束」である。本来は現実に存在するものではなかったが、長い間にゲームから現実の社会に転用され、現代では実社会でも珍しくなくなった「お約束」だ。

もうすこし分かりやすい例を挙げよう。例えば「ポーズ機能」などは分かりやすいコンピューターゲームの「お約束」だろう。いきなりその状態のままでプレイを中断し、しかもそれが解除するまで続く。完全にプレイを一時停止できる*1。これはよく考えてみればかなり特異的であろう。

このようなモノ意外にも、個々のタイトル別に見てみれば「お約束」は枚挙に暇が無い。そしてそれをいつの間にか当たり前の「常識」として受け入れてしまっている現実がある。

「お約束」だけで作られる「思考停止」のタイトルが多いということ

そのような現実の中で起こっているのが、「お約束」をそのまま踏襲するということである。いかなる「お約束」にもそれが生み出された背景には理由がある。しかしながら、一旦常識化してしまうと、常識と同じ理由、つまり「常識だから」というだけの理由でよく検討されないまま採用されるということが起こってくる。

注意すべきなのは、その「お約束」がひとつのタイトルを作るのに十分な量で既に存在しているということだ。つまり、まったく「思考停止」状態でひとつのゲームを作り上げることも不可能ではない。そしておそらく、常識が効率化の手段であることを考えれば、それが起こるのは想像以上に容易なのだろう。

ただし、思考停止状態でただ「お約束」をかき集めただけで効率化になるか?といえば答えはNOだ。作り上げること自体は容易かもしれないが、その質に関してははっきりいって期待できない。

「お約束」を喜ぶのはコアなファンだけであるということ

世の中にはそういった「お約束」を積極的に求める層がいる。いわゆるコアなファン層である。「コア」というだけあって、その層はニッチだ。たいていの場合「お約束」は求められていない―いや、むしろ拒否される。それはプレイヤーを置いてきぼりにするからだ。

特に新規顧客開拓というすべてビジネスに必要な活動をしようとする際にそれはもっとも大きな障害になる。新規顧客層はゲームを知らない人、ゲームに拒否感がある人、はたまたゲームが嫌いな人が大半なのだ。

昨今巷では携帯電話向けカジュアルゲーム、通称ケータイゲームが注目を集めている。なんといっても専用機より一桁普及台数が多いわけで、潜在的な市場の大きさには誰しもが期待する。だがしかし、この市場(もっといえばカジュアルゲーム市場)のプレイヤー層は上で述べたようなゲームを知らない、嫌い、拒否感があるプレイヤー未満が大半なのだ。果たして、彼らに「お約束」コテコテが受け入れられるだろうか?

「お約束」に囲まれながら「お約束」を再生産し続ける作り手に、このことが理解出来ているのか、に関しては(生意気ながら)疑問である。なんとなく今までの経験で作ることを続けているのであるならば、「お約束」を避けるのは難しい。

エポックは常識の否定、「お約束」を覆すことで生まれる

ごく当然のことだが、エポックメイキングとはつまり常識を否定することである。そして、今「お約束」となったことの元ネタも、出た当初はエポックでありそれ以前の「お約束」の否定であった。

コンピューターゲームの王道、パックマンやらスーパーマリオブラザーズやらドラゴンクエストなどを参考にするのは容易である。しかしながら、それらがエポックメイキングであったこと、「お約束」をぶち壊していたことを参考にすることは不思議にも少ない。王道に学ぶべきは一体何か、よく考え直してみる必要があるだろう。

*1:このあたり、アナログゲームで「待った!」をかける事とは異なる。どうしてもアナログゲームだとそのままで留め置くことが出来ない。