ゲームデザインパターンの"今"

4月からこの本の輪読会に参加している。

The Game Design Reader: A Rules of Play Anthology (The MIT Press)

The Game Design Reader: A Rules of Play Anthology (The MIT Press)

この本はかのRules of Playの著者2人が編者として、ゲームデザイン研究(とそれに役立つ研究)の論文や本、エッセイなどを集めたものである。含まれる内容はかなり多岐にわたり、1ゲームファンが書いた文章から著名な研究者の文章までさまざまな分野のさまざまな年代の文章が載っている。

先週はこの中からゲームデザインパターンについての文章、「Staffan Björk and Jussi Holopainen, "Games and Design Patterns"」について触れた。内容がどのようなものなのかに関しては、d:id:kenjiitoさんが詳細に記述されているので参照されたし。

読む前はある程度期待していたのだが、結論から言えば使えない。方向性としては、d:id:kenjiitoさんも書いているように可能性を感じるところであるが、残念ながらゲームデザインパターンは未だ使えるレベルには到達していない、というのが私の所感だ。理由としては以下の3点があげられる。

1.「パターン」としての枠が大きすぎる

ありとあらゆるものをパターン分析しようという野心的な考えを感じるが、それゆえに現実に使うツールとして考えた場合にとり回しが悪い。

たとえば、「RPGゲームデザインパターン」「FPSゲームデザインパターン」といった風にジャンルベースに制限した中でのパターンが見出せれば、それはある程度有効だろうし、需要もあるだろう。あるいは、以前紹介した「TwoStyleOfPlayAtOnce」のように細かく再分化してグッドアイディアパターンとして成立した方が、現実の開発現場においても重宝されるであろうし、きめ細かな分析も可能だろう。

どうも、「帯に短し襷に長し」という言葉が思い浮かばれてしまうのだ。

2.記述テンプレートの妥当性に疑問

  • 1. 名前
  • 2. 中核的な定義
  • 3. 一般的な記述
  • 4. パターンの使用
  • 5. 帰結
  • 6. 関係
  • 7. リファレンス

果たしてこの挙げられた7つのテンプレートが本当に有効な記述なのかどうか分からない。

この文章によると、ゲームデザインパターンは次のような方法で開発されたものだという。

はっきりいえば、批判的検討の余地がありである。これだけが方法なのか、どのようなゲームをどのように分析したのか、ゲームデザイナー達はいったい誰だ、などなど疑問が尽きない。個人的にはそもそもテキストベースの記述で本当に十分なのか、という疑問もある。たとえ有効だったとしても、信用を得るという意味で不十分だろう。

3.資料的価値を生み出すに至っていない

たとえゲームデザインパターンが分析ツールとして使えたとしても、分析例があまり集まっていないぶんにはまだ「使える」といえるほどの価値がない。

逆に言えば、ゲームデザインパターンによる分析資料がある程度集まって初めて分析ツールとして使えるようになる。現状はまだ時期尚早だ。

ゲームデザインパターンのこれから

ネガティブに書いてきたが、とはいえ、これを否定するつもりはなくて、むしろ5年後・10年後が楽しみであるといえる。なにしろ、歴史が浅い。練が甘く感じるのも仕方ない。実績のある「デザパタ」の名を名乗るが故に、厳しく見られがちであるのは、まあ関わっている研究者達が一番よく分かっていることだろう。

数あるゲーム研究の中でも、開発でも研究でも使えるよう、最も実用志向な研究例のひとつであるのは間違いないところである。共通語彙として、分析ツールとして、基礎概念として、大いに期待が持てる研究事例だ。