"ゲーム離れ"とは結局、ゲームビジネスの構造不況だったのではないか

ここ1・2年盛んに言われてきた「ゲーム離れ」。この原因は結局ゲームビジネスのまずさが産んだ構造不況なのではなかったか、と個人的に考えている。

「ゲーム離れ」が言及されることは多かったが、その原因として挙げられたのはまずコンテンツの質であり、次に多かったのが携帯電話をはじめとする他の娯楽の台頭であった。確かに、近年のゲームコンテンツは一時期ほどの勢いも珍しさも無くなり、魅力が落ちていることも事実だ。携帯電話にお客を取られ、ゲームに使う金額が減っているというのもおそらく事実だろう。

しかし、よくよく考えてみれば当たり前のことだ。黎明期の勢いが数10年経って落ちる、というのは当たり前のことであり、新たな娯楽コンテンツに人々の注意が向かれ、新たなライバルとして台頭する、のも当たり前のことだ。娯楽の世界で起こるよくありがちな”日常”でしかない。

ここで注意すべきことは、そのような時代の必然に出会いながら、未だ人々の心を魅了して止まない娯楽が存在している、という事実だ。陳腐化とライバルの台頭を経てもなおビジネスとして成立しているという事実は、つまり「ゲーム離れ」と呼ばれた現象の本当の原因はそこではないということを示唆している。「ゲーム離れ」の原因と言われた現象だけでは、勢いが落ちることは変わらないがものの、最盛期の半分まで急速に市場が萎んだと言われる「ゲーム離れ」が起きるとは限らないのだ。

では本当の原因とは何か。ヒントは実は「ゲーム離れの原因」とされた現象にあると考えている。

まず、コンテンツの質。よくある話では、マンネリ化・ネタ切れと言うものが多い。なるほど確かにこういったタイトルは多い。しかしながら月に数十タイトルも出される現状でマンネリ化しない、と言う方がおかしい。むしろ、よくよく目を皿にして調べてみると意外にも新しいアイディアが詰まったタイトルが紛れている。そういうタイトルに出会うと、何だ、マンネリ化は嘘だったのか?と思ってしまう。

コンテンツの質はまだまだ捨てたものではないし、マンネリ化に挑む作り手も居る。それでもなおマンネリ化と呼ばれるのは、産業構造的に新しい試みがしにくくなっている、と言うことのあらわれである。新しい質のコンテンツは「売れない」の一言で一蹴され、「売れる」マンネリタイトルが乱発、結果的に消費者に全体がマンネリ化しているという印象を抱かせる。

エンターテイメントの本質が「驚き」であるなら、エンターテイメント産業としては致命的欠陥構造である。本来、「売れない」ではなくて「どうやって売ってゆくか」考えるべきなのだ。さらにいえば考えるだけでなく、実際に売る。そしてヒットさせる。そうして行かなければ食ってゆけないし、先は無いのだから。

コンテンツの質を変える方法として、新たな才能を迎え入れるという非常に効果的な方法がある。ところが、現状では新しい才能を発掘する試みは非常に少ない。まして、残業代は出ません、社会的地位は低いです、などという職業に好き好んでなろうという人間が物好き以外にどれだけ居るのか。天才は育てることは出来ないし、秀才も一朝一夕で育てられるわけではない。天才でも秀才でもない古い才能が生み出すのは、たいていの場合古い質のコンテンツであり、それらの多くはマンネリだ。

未だに大作志向が強いのも、コンテンツの質を変えられない原因だ。異質になるにはアイディア勝負が必要だが、でかくて豪華でどっさりな大作志向はアイディア勝負とは正反対の位置にある。価格に関しても例えばPS2の標準的な6800円という価格はアイディア勝負のタイトルの価格としては高すぎだ*1。全てのコンテンツが同じ価格帯であるべき理由はないし、大作志向で高価格化していれば安心で伝統的な有名大作タイトルしか消費者は購入しない。

このことは他の娯楽の台頭への対処にも繋がる。ゲームにお金をさいてもらえないのなら、さいてもらえる価格まで下げる、価格帯を増やして選択肢を増やす、などなど対処法があるはずだ。実際、携帯電話は圧迫しているというより、低価格(数百円)のタイトルを投入するプラットホームとして機能しつつある*2。その意味で携帯電話を槍玉に挙げるのは実におかしな話だと言うことが分かるだろう。

もし、音楽や映像コンテンツなどがゲームを押しているということなら、それは実に危機的状況だといわなければならない。これらはゲームよりもトラディショナルでありマンネリ化の進んでいる娯楽である。押されていると言うより、ゲームビジネスがあまりにもダメで自ら萎んでいるといわざるを得ない。

これらのように、ちょっと調べるとゲームビジネスのまずさは枚挙に暇が無い。コンテンツの質が云々、他の娯楽が云々という以前に、売り方の問題、産業構造の問題なのだ。結局、ここが改善されない限り、永遠に「ゲーム離れ」は続いてゆくことだろう。

*1:D3パブリッシャーSIMPLE2000シリーズなどもあるが、それにしたって選択肢が少なすぎだろう。500円から1500円くらい、3000円から4000円くらいの価格帯がポッカリ穴が開いている。これがどれだけ商売の機会を逸していることか。現実的にはここに中古が食い入る形なのだが、メーカーには利益にならないと言う日本の特異な構造の為に、中古でいくら売れていても「売れない」とみなされる。たとえ適正価格であったとしてもだ。そういえばレンタル制度も一向に始まる気配が無い。アイディア勝負のタイトルにとってこの上ないアピールの機会になりうるはずなのに。このように挙げれば挙げるほど、ゲームビジネスは新しい質のコンテンツを提供しようとする気が無いように思える。

*2:依然エンターテイメント提供の環境としては最悪の部類だが。