トーキョー・ドリフト:"ガイジン"開発者が見た日本(DiGRA2007)
DiGRA2007の中で唯一開発者向けのシンポジウムとして開かれた「Tokyo Drift: Imports to the Japanese Developer Community」の様子を自分用メモから紹介。記憶に頼る部分、抜けも多いが勘弁されたし。
"プランナー"という謎の日本独特の職業
- ジェイソン:
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日本の開発者の職種には「プランナー」という職種があるようだね。なんでも、プロジェクトマネージャーとデザイナー*1を兼ねたような仕事らしいね。
デザイナーは、ああしようこうしようと「Yes」を言う職業、プロマネは予算が、期限が、と「No」を言う職業、という認識なんだけれどもそのYesとNoを言う職種が同じだなんてとても不思議だ。一体どういう職業なんだい?
- パネリスト:
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- 実際のところ、ほとんどやっていることはデザイナー
- 利点もある。プロマネとデザイナーの間の意思疎通の手間が要らない
- 兼ねているということはおそらく何か意味があるのだろう
- プランナーという職業はかなりあいまい
本来別職種・別スキルの必要な2つの職を兼ねる「プランナー」は欧米開発者の目には相当奇異に映るようだ、と感じた。考えてみれば、プロジェクトマネジメントとゲームデザインはそれぞれひとつの学問を形成するぐらい(特に前者)であり、究めればキリがない。その2つのスキル*2を同時に要求するプランナーは、ある意味スーパーマンを要求するようなものであり普通に考えれば成り立たない。彼らにしてみれば、そのような分業化があいまいな中、一体どうやってプロジェクトを進めているのか相当の関心事であることは想像に難くない。
日本の開発者サラリーは低い?
- ジェイソン:
- 日本で働くというのはどうだい?日本はあまりサラリーが良くないとか?
- パネリスト:
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- ヨーロッパの約2/3、アメリカよりは大分低い。
- ただし、税金が安いので結果的にはトントンかも。
- ロンドンにいたときは、大きな部屋だったが、こっちは小さな部屋なので安い
- ジェイソン:
ボーナスといって前もって給料から引かれているらしいけど?- パネリスト:
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- そういう考え方もできるが、お金が必要な時期に1か月分のサラリーが入ってくるのはとてもありがたい。
日本の開発者にとっては衝撃的?それとも、「ああやっぱり」?
ゲーム業界に限らず、日本のIT系は開発者軽視、とはよく言われることで、「給料安い」といわれると実感がよりわく?
女性開発者比率
※注:このシンポジウムの前に「Women in Games 2007」というパネルセッションが同じ会場で開かれている。
- ジェイソン:
- 先日TGS2007にいったんだけど、女性のプレイヤーの姿を良く見かけたよ。開発現場ではどうだい?
- パネリスト:
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- 開発者の比率としては欧米と変わらない
一昨年TGSに来場したデラロッカ氏が、女性コンパニオンが女性来場者に説明している写真をBlogに挙げて、なんてすごいんだ!とコメントしていたのを思い出した話。日本にいる我々には実感が薄いが、欧米から見ると女性プレイヤーの多さは目に付くことらしい。ひとつまえの「Women in Games 2007」でも日本と女性の話が出ていたと記憶している。
消費者とのかかわりあい
- ジェイソン:
- 欧米の開発だと、消費者と直接メールのやり取りをしたりフォーラムを設けたりして消費者と直接かかわり合うことが重要視されているけれども日本ではどうだい?
- パネリスト:
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- 直接かかわりあうことはほとんどない
- ただ、「2ちゃんねる」という有名なメッセージボードの書き込みはスタッフみんながチェックしている
- スタッフひとりひとりが消費者の意見をそうやって汲み取っている
- 直接メールなどでやりとりしたからといって、本音を言ってくれるとは限らない。そういう意味ではメッセージボードの方はいいことも悪いことも本音で書かれるのでとても参考になる
- ジェイソン:
- フォーカステストはやらないのかい?
- パネリスト:
※詳しい人がいないので明解な答え得られず。
ま、「スタッフひとりひとりが消費者の意見をそうやって汲み取っている」と言われると大層なことをしているように見えますがね。
前提として、欧米ではPCの市場があるので日本のコンシューマーよりも消費者と開発者の間の対話が重視されてきた、という市場と歴史の違いがある(そういう意味では、オンラインゲーム市場ではコンシューマーよりも欧米に近いかもしれない)。ただ、PC市場が日本でしっかりしていたとしても、面と向かって批判しないことを美徳とする文化圏ではうまく消費者の意見を汲み取れない、ということも容易に想像のつくことではある。どちら方式がよい、とは言い切れない。下手に聞きすぎても、声の大きなユーザーの趣味に合わせてしまって、大多数の「現状で満足」という無言のオピニオンを見逃すこともある。どの業界でも消費者のニーズの汲み取りは難しいもの。
ビジネスとアカデミックのつながり
- ジェイソン:
- 業界と学会などのつながりは?
- パネリスト:
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- 明日から同じ会場でやるCEDECなどがある
- 開発者同士は非公式なつながりでつながっている
- 学会とのつながりは良く分からない
- いくつかの企業は自社で専門学校を運営している
- 明日から同じ会場でやるCEDECなどがある
ここで代弁して答えておくと、「散発的な事例を除き、つながりはほとんどない」。まあ、以前に比べれば状況は改善しつつあるが、欧米の開発者が日本の事例に学ぶことは、「脳トレ」の事例くらい*3ではないか。
ジャーナリストとの関わり
- ジェイソン:
- ジャーナリストと業界の関係は?
- パネリスト:
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- 「ファミ通」という雑誌の影響力が強い
- レビューが広告費に比例するという噂がある
- その辺は欧米も変わらない
- レビューが広告費に比例するという噂がある
- 「ファミ通」という雑誌の影響力が強い
このへんのつっこんだ話は本業の人に任せるとして。
日本のジャーナリストはとても頑張っている、と個人的に思う。業界が良く分かっていない、という批判もあるが、鎖国主義のこの業界ならある意味当然である。学生時代の私の経験からすると、英語の文章で国内の業界の様子を探るぐらいしか情報がなく、その情報もやはり数ヶ月のアルバイトで得た経験にはとても適わない量であった。ゲームジャーナリストの苦労は想像以上だろう。
ここ数年GDCやCEDEC、DiGRAなどのカンファレンス・学会の情報を日本語で伝えてくれるお陰で開発の現場としてはとても助かっている。実際に参加したほうがそれはもちろん得るものは多いが、そうそう行けないのが世の常、記事には頭が下がる思いである。「あの記事見といて」とURLを送るだけでコンセンサスが取れる利便性に適うものはそうそうない。鎖国主義は国外に向けてではなく社外にむけてのものなので、些細な日本の他社の状況だけでも現場としてはかなり価値のある情報なのだ。
「脳トレ」をはじめとするDSブームは、市場のパイをこれまで対象でなかった人々にまで広げた。この傾向は今後も続き、「1億総プレイヤー時代」が近い未来に訪れることだろう。その社会に対する大きな責任が生まれる未来にゲーム企業・業界が求められるのは「公共性」とそれを支える「透明性」である。では、現状の透明性は如何?
- 業界一年生が、「ゲームは好きです。でもゲーム業界はよくわかりません。」という。ふーん、謙遜だよね?
- 「映画の作り方わかりますか?」と一般人に質問して監督とカメラと俳優の違いが分からない人はいない。では、ゲームの作り方は?…あれ?新聞に「ゲームクリエイター」なる謎の職業名が踊ってる!?オレもこれになんの?えー!
…現状の情報公開度合いでは、この業界にその責任を負う資格はない。いつまでも趣味の延長線上ではいられない。子どもが大人にならないのは死ぬ時だけだ。
何故こんな話を書くかと言えば、キーになるのはジャーナリストだからだ。開発者の皆さん、もっとジャーナリストの人たちと仲良く、情報公開しましょう*4。ジャーナリストの皆さん、開発者も唸るいい記事書いてね!
政治との関わり
- ジェイソン:
- 政府や政治家とのかかわりは?
- パネリスト:
-
- CEROという組織があってレイティングを行っている
この業界には政治に積極的に介入できるほどのロビイストは居ない。精々、コンテンツという呼称に涙を飲んでCoFesta/CEDECセミナーをタダにするのが関の山。逆に政治側からの介入は地方自治体レベルではあるが、まあ、それでもたいしたことはない。北米の事情に比べるとなんとも薄い関係である。
何故欧米のゲームは日本市場で売れないのか?
- ジェイソン:
- 欧米のゲームは日本で売れていないと聞く。たとえば、「Halo3」などは世界中で売れているが、日本ではほとんど売れていないらしい。それは何故だと思う?
- パネリスト:
- ジェイソン:
- 暴力表現に対して文化的な違いがあるとか?たしか、体の一部がちぎれるような表現はだめだとか?なんでも、体と魂が別であるという考え方ではなく一緒であるという考え方が強いので受け入れられないと聞いたが?
- パネリスト:
-
- ※答えられず
デラロッカ氏はどうも日本の文化に対して勘違いしているところがあるようだ。かつての首切りの風習が文化的背景となって暴力表現の受容度合いに影響を与えている可能性はあるが、正直売れない理由を文化に求めるのは賢明な判断ではない。
なんといっても最大の理由はマーケティングである。日本製タイトル並みなら売れるとは決して言わない。だが、同程度以上にやらなければ売れることもまたないだろう。結局は、何故か欧米で売れない日本製タイトルと同じ。市場にタイトルを合わせるのだけがマーケティングじゃない。タイトルに市場を合わせるのもまたマーケティングだと思う。
"ガイジン"開発者が働くうえでの障害は?
- ジェイソン:
- 日本で働く上で人種差別みたいなのはあるかい?"ガイジン"だから、ということで差別されたりすることは?
- パネリスト:
-
- いまのところ、感じたことはない。むしろ、"ガイジン"だから、ということでワガママが認められることが多い。
- そういう意味で"逆差別"みたいなのはあるかも。
- いまのところ、感じたことはない。むしろ、"ガイジン"だから、ということでワガママが認められることが多い。
- ジェイソン:
- 日本の社会や企業には官僚主義的なところがあると聞くが、そういうところはあるのか?"ガイジン"の開発者の出世が制限されているとか?
- パネリスト:
-
- 少なくとも小さいところはない
- スク・エニは大きな会社だが、そういうところはない
- ジェイソン:
- 言葉の問題は?
- パネリスト:
-
- 日本語は必要
- ただ、ブロークンな英語が結構多く使われている
- コードの変数は英語。コメントは日本語だけど。
- テクニカルな部分だと英語の情報が多い分、有利
- 日本語は必要
他の業界でも問題になる事だが、2・3番目の問題は比較的この業界は恵まれていると言えるだろう。なんだかんだいってATARIカルチャーの継承者なのは洋の東西を問わず。
日本発のイノベーションについて
神話化する日本発イノベーション。ただし、日本の老舗系企業(任天堂や旧ナムコなど)にはイノベーションを育てる*5ノウハウがあるように外部からは見受けられる。生のイノベーションは食えないことを良く理解し、調理法を心得ていることが結果的にイノベーションとして評価されてきたとも言えるだろう。
「安い予算の中、ハングリー精神で云々」という美談も結構だが、精神論ではなくノウハウの形で理解しないのは賢明ではない。
会場からの質問
- 質問者:
- 日本で暮らすことについて。自分は最初、和を保つ風潮が分からなかった。
- パネリスト:
-
- そういう風潮はあるが会社の規模による
- むしろ意見を主張することが良いこともある
- 質問者:
- 外国人であることについて限界はないか?
- パネリスト:
- 質問者(途中参加で前のパネルセッション参加の女性研究者と思われる):
- 女性については?
- ジェイソン:
-
- (既に開発者比率は欧米と変わらない、アーティストの場合は比率が高いという話がされたという説明)
- うちの経営者は女性です*7
- 質問者(別の女性研究者):
- 任天堂などの日本のゲームタイトルは女性にも受け入れられるように感じる。
-
- 「ラブ&ベリー」のように母親と娘が一緒に遊ぶ人気タイトルや女性向けデートゲームなどがある
- 質問者:
- 日本の開発体制や使っているツールなどについて。
- パネリスト:
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- スクラム開発をやっている。もともとはプログラマーの中で広まり、今では会社全体で使っている(イニス、Robert Ota Dieterich氏)。
- スクウェア・エニックスではチームごとに体制が全然違う。(スク・エニ、Colin Williamson氏)
- ドキュメンテーションが多いと感じた。後から参加する人のためにしっかり用意している。(グラスホッパー、Kees Gajentaan氏)
- 質問者(日本人):
- オブリビオンのようによくできているがこのグラフィックが日本では、というような例があるが、日本のゲームでこうすればよかった、というものは。
- パネリスト:
これらの質問も面白かった。個人的には、開発体制の質問は興味深かった。
感想
外から見ると良く見える、とはよく言ったもので大変興味深いシンポジウムだった。第3者的視点はいつも有効だが、交流が少なく、文化的な島国根性・鎖国主義の中に居ると、その事実すら認識できないことには恐ろしささえ感じる。
残念なのは、ディラン・カスバート氏が欠席だったこと。他のパネリストでは答えられない質問がいくつかあったが、氏の経営者としての経験、日本在住の長さを考えればもっといろいろ興味深い話が聞けただろうに実に残念である。